カプリチオシリーズ「陽光」Youkou
サイズ:132cm×2885cm
富士山を描いたと思えば、本作のように抽象的な作品も描く。なぜ作風が幅広いのか。生き様を描いているからだ。どんなモチーフを描くときにも、番は絵と対話し、なぜ生きるか問うている。自分の未熟な内面と闘い、生き方を模索しているのだ。その問答は、絵画の奥行きとなって立ち現れる。本作は非常に大きな抽象画で、番が全身を使って描いたエネルギーが伝わってくると同時に、精神世界の深淵に誘われる。未熟さを自覚している人なら、誰もが共感する絵画だろう。
番洋「カプリチオシリーズ 陽光」
三枚のパネルを横に貼り合わせた横長の作品である。中心に黄金色のフォルムが見える。背後はふかぶかとした豊かな青の階調である。そこに白いフリーの曲線や直線が引かれることによって、ロマンティックなイメージがあらわれる。ドリッピングも使われている。アクションペインティングをかつてジャクソン・ポロックが行ったが、日本人である番は、同じ行為を繰り返しながら、雅びやかな王朝の世界にその夢を膨らませていくようだ。画家は自分自身のつかんだ空間の意識をこの平面の中に表現する。そして、空間の質を高めることによって芸術にする。それは書の世界とも共通するものがあるかもしれない。東洋の深い伝統の上に立った仕事だと思う。そして、ところどころ自分自身の落款を押した紙を貼っていて、天空に自分自身を放り投げている。いわゆる自意識との格闘ではなく、空間の中に自分自身を投下するといった思想にもなるだろう。その意味では禅的な世界もこの作品の中に取り入れられていると思う。
(高山淳)–美術の窓2006年8月号より