ストーリー03

洋はいま、 大阪の緑地公園に住んでいる。
 隣りあわせて建つマンションの、それぞれ3LDKの部屋を、住居用とアトリエ用に占めて、 往き来する。
絵描き
 アトリエには、中国骨とうの硯が鎮座していたり、 ヨーロッパのアンティックな品々があったり。 独特の耽美な雰囲気をかもし出していた。
 壁に一点、王家の紋章をみる。
 いや、パレットだ。王家の紋章と錯覚させたパレットが、壁にかかげられてある。
 35年もの年月を、えいえいと使いなじんだパレットの周りには、 10センチ前後にうずたかく盛りあがった色調合の跡が、絵具の層が、 山脈をつらねたようにとり囲んでいる。 期ごと色変わりに地層を刻んだかにみえて、 番洋が刻んできた画歴の、証明にちがいない。
 目下、200号の大作にとりかかっていた。
 サングラスをはずして、制作する。 でも、右眼は、ずっと閉じている。 室内でも光線まぶしく、閉じているほかない。
 けれど、隻眼となって、画風は一転した。 両眼が健全だったころには、決して産みだせなかった表現を、彼はいま産みだしていた。
 なに、それは隻眼だけのものではない。
 「隻眼と心眼」があわさった、相乗効果とみえる。
 そう、そうなのだ。失明した右眼は、”心眼”となって、再生されたようだ。
 奥深く内面をみつめた心象を、詩的に抽象的に画面構成してゆく。 色づかいの、透明感あって鮮烈なブルーとレッドを編みだして、 作品の特徴、番洋カラーとなっている・・・。